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Ending

本書の舞台は、2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まる直前のウクライナである。主人公の一人は、18歳の少女アナスタシア(Anastasia)。彼女は、ウクライナの女性と西側諸国の男性との国際結婚を仲介するブライダル産業でアルバイトをしている。ロマンスツアーに参加し、男性の目を引く装いをするのは、生活のためにやむなく行っている。一方、アナスタシアの母親は、国際結婚の名のもとに多くのウクライナ女性が海外へと消えていく現実を告発する社会活動家であり、家を出たまま戻ってこない。

もう一人の主人公はイェヴァ(Yeva)。彼女は絶滅の危機に瀕したカタツムリの種を探集し、その保護に努める研究者である。カタツムリ(snail)は gastropod とも呼ばれ、gastro(胃)とpod(足)を語源とする。すなわち、胃の筋肉を足として移動する生物群を意味する。タイトルのEndlingは、「絶滅寸前の種」あるいは「その最後の個体」を指す語である。イェヴァは嘆く。「なぜパンダの保護には莫大な費用が投じられるのに、カタツムリを絶滅から救おうとすれば人々は笑うのか」と。

物語の前半では、この対照的な二人が出会い、ある計画を立てるまでが描かれる。しかし展開がやや現実離れしており、当初は読み続ける意欲を失いかけた。ところが後半に入ると、一気に劇的な展開を見せる。ロシアがついにウクライナへの侵攻を開始するのだ。ここから、フィクションと現実が交錯し、二人の運命がどうなるのか、読者は目が離せなくなる。

著者マリア・レヴァ(Maria Reva)は、ウクライナ生まれのウクライナ人であり、アメリカの大学で教育を受け、現在はカナダに暮らすエクスパット(expat:祖国を離れて他国に居住する人)である。彼女が遠く離れた地から祖国の惨状を見つめる苦悩を思うと、胸が締めつけられるようだ。

読者は、登場人物とともに戦争のただ中を体験する。たとえば、ロシアは侵攻直後、自国民のエキストラを動員し、「ロシアに解放されたことを感謝するウクライナ人」を描くプロパガンダ映画を制作した。読者は、あたかもその撮影現場に立ち会っているかのような錯覚を覚える。さらに、目前に迫るロシアの戦車、身分証の提示を求める兵士、そしてどこからともなく飛来する銃弾。そうした恐怖の瞬間を、読者は物語の主人公、そして著者とともに追体験するのである。そして、戦火の中にあっても、家族の説得にもかかわらず祖国を離れようとしない人々がいることを知る。本書はフィクションでありながら、ノンフィクションに匹敵する迫真性がある。

著者が描くのは、戦争の悲惨さや不条理だけではない。どれほど過酷な状況にあっても、希望の光はなお消えないことを示している。小さなカタツムリが命をつなぎ、かろうじて絶滅を免れるように。

ロシアによるウクライナ侵攻から四年が経った。アナスタシアやイェヴァは今どうしているのか。彼女たちは無事なのだろうか。小説の登場人物でありながら、生身の人間として、思わず彼女たちの安否を案じてしまう。

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